- この記事を読んでほしい人
- 製造業の工場で製造部門に属している管理者で…
・納期、生産性にフォーカスしすぎた感に疑問を感じている方
・製造品質とはなんぞや?と改めて自問自答を繰り返している方
・自分たちが何を信念として自部門内のベクトルを合わせていくべきか悩んでいる方
この記事では、
これまで製造業複数社で「設計開発」、「品質保証」の部門を経験しながら、自社や他社の製造部門を見てきた僕が思う「製造部門が本来フォーカスすべきこと」について私見を述べています。
結論から言います。
製造業の最も重要な役割は、
設計された製品を「設計されたとおりに再現する」ことを追求する
ということだと考えます。
現実的には不可能ですが、もちろん究極は設計値の「どセンター」で図面の理想寸法ピッタシの製品を作り上げることです。
分かりやすく言えば、3D-CADで描いたモノを現実世界でそのまま再現する勢いです。
(部品の寸法バラツキは無視する)
これまでの経験上、大きな企業の工場であればあるほど、根底にある役割を自覚せずに「かっこよく」生産性をあげることにフォーカスしてしまっている製造部門が多いように感じています。
・自働化による省人推進
・AIによる画像検査装置導入
・IT技術を駆使した製造進捗管理
・必要な時に必要な物だけを作り上げて出荷する「ジャストインタイム」追求
これらも重要な要素であることは間違いありません。
しかし、これらの活動をしていくうえで全員が共有するべき組織の理念であったり、製造の仕事の楽しさを維持する源泉となるのは、結論で述べた「あくなき設計値への追及」ではないでしょうか?
僕は製造部門に属したことは無いですが、製造現場の鉄火場感はある程度理解しているつもりですし、いろんな想いを持った多くの人間を統率していく大変さも分かっているつもりです。
そのうえで、このように考えるようになった次第なのです。
あなたも今一度自分に問いかけてみてください。
製造部門は、
速くモノを作ることを追求するのが仕事ですか?
安くモノを作ることを追求するのが仕事ですか?
それとも
正確にモノを作ることを追求するのが仕事ですか?
近年の製造部門の置かれている状況
自社の製品やサービスが技術的に突出していて、市場シェアを独占している企業でない限りはコストと納期で勝負をしていかなくてはならないのが現状です。
日本の製造工場で特に競合が多い企業は、海外の競合ふくめ「コストがより安く」、「納期がより早く」、「在庫調整に応じてくれやすい」企業達との熾烈な戦いをしていかなければなりません。
このような構造の中で、製造現場は上層部からのコストダウン要請、短納期対応を迫られます。
それも「品質が良いのは大前提」という暗黙のルールの中で・・・。
製造現場では人員のやり繰り、生産性をあげるための取り組み、急な生産計画変更などで毎日毎日鉄火場状態です。
会社の上層部目線でいけば、早期に顕在化する問題はやはり「コスト」と「納期」です。
この2つで失敗を起こせば、製造部門にすぐさま是正の指示が飛んでくるでしょう。
鉄火場状態の製造現場にコスト圧縮と納期遵守の指示出し続ければ、現場の末端はどういう動きになるでしょうか?
お客様サイドですぐに問題にならないような品質の部分で手を抜き始めます。
手を抜くというと印象悪く聴こえますが、現場の担当者は自身の中で日々いろいろな判断をしながら作業をしています。
究極の選択を迫られた時は、過去の自身の経験から判断し、行動に起こしている部分も数多くあります。
もう納期的に限界だ!でも管理者が現場にいない・・・
という状況下では、まず最初に「目に見えないところ」の作りこみやチェックを仕方なく雑にしてしまう心理は誰しも持ってしまうでしょう。
このような罪悪感をもったままの選択を続けていけば、コストや納期を製造部門のみの責任にしてしまえば、製造部門の担当者はどうなるでしょうか?
・不満を募らせ、ストレスを溜める
・雑な作りこみに慣れてしまう
このような担当者が増えていけばどうなるでしょうか?
そうです。
製品・サービス全体の品質が低下するんです
品質で大きな問題を起こすと取引先からの信頼を失い、発注すらもらえなくなります。
これまでの経験上や業務上でたくさんの国内海外工場を訪れて体感してきましたが、いまや日本の製造工場の製造現場は疲弊しているのが現状です。
中国企業やその他新興国企業の実力を「下に見ていれる」ような状態ではありません
無論、これは多少頑張っても給料が変わらない給与体系であったり、会社の経営方針であったり、ある程度満足いく生活水準になっているため上昇志向が薄れているなどの環境要素も大きいでしょう。
この間に中国や新興国の企業は、莫大な投資と経済の発展とともに上昇する賃金のモチベーションなどでドンドン実力を上げています。
日本の工場の製造部門リーダー・管理者は、このような環境を嘆いているだけでは状況は好転しないことは理解していると思います。
そんな中で製造部門が意識を統一し、活気あふれる職場へと盛り返していくために
設計された製品を「設計されたとおりに再現する」ことを追求する
を製造部門の最も重要な役割と認識していただきたいのです。
これこそが日本人の強みを活かすことになる理念になると考えます。
なぜ設計値の再現性を追求するべきなのか
「自社の製品・サービスを通してお客様を笑顔にしよう!社会に貢献しよう!」
というようなスローガンもいいと思います。
しかし、「製造現場とお客様や社会との距離」は、営業部門に比べると遠いのが現実。
製造部門全ての従業員が同じ方向を向けるか?というと、あまりに抽象的です。
品質重視と思っている人
コスト重視と思っている人
納期重視と思っている人
イザという時の判断は、人それぞれが過去の経験から重要視しているものに依存し、足並みがそろいません。
製造部門の仕事は、設計・開発部門が「設計した通りの製品やサービスを具現化し、そのプロセスの信頼性を維持すること」です。
これを逸脱するようなコストダウン活動や無理を重ねた納期遵守は、製造部門が責任を負うものではなく会社全体で考えるべきこと。
設計値の再現性を高めることを信念とし、追求することを組織内の人間に浸透させることができれば、製造部門では何をすべきかは自ずと見えてきます。
なぜ寸法がばらつくのか
なぜ作業が安定しないのか
なぜイレギュラー作業が起きるのか
これらを突き詰めてデータを蓄積していけば、根拠のあるコストダウンのネタとすることもできますし、納期遵守の障害が見えてきます。
そして、結果的に製造の品質と工程の信頼性を高めることになるのです。
どのようなアプローチで再現性を高めて行けばよいのか
自分たちの実力を客観的に把握する
まずは自分たちの製造工程の付加価値を加える作業の信頼性を数値化しましょう。
そうすると思っている以上に、自分たちの製造プロセスは不良を作りこんでしまうリスクがあることが分かります。
自分たちの工程信頼性の実力を客観的に把握するのです。
そこから、工程設計通りの作業が安定して再現できるような信頼性レベルアップを図っていきます(治具化、自働化、ルール化など)。
品質保証部門を味方に付けて「Q・C・D」バランス指標を明確にする
自部門のパフォーマンスで今まで数値化できなかった部分を数値化していくことは、やってみると大変ですが非常に面白いです。
当然データ取得や新たな指標を設けるための定義決めなど手間がかかります。
そんな時は品質保証部を味方につけましょう!
製造品質を上げるため、自律改善をしようとしている製造部門に対して品質保証部が協力を惜しむはずがありません。
というか協力しなければなりません。それが品質保証部の仕事なんですから。
製造部門の意識改革に向けて、利害が一致する品質保証部は最高のパートナーです。
工程信頼性の評価、工程能力指数での管理などでバンバン協力してもらいましょう。
どの会社も実態は違っていても大体表向きは「品質第一」です。
製造部門がこれからやっていこうとしていることは、コストと納期のパフォーマンスが一時的に落ちるかもしれませんが、品質保証部の協力も得ながら工場の作りこみ品質を上げていくという大義のもとで社内で意見も通しやすくなります。
コストと納期のパフォーマンス低下でまず被害をこうむるのは、社内の「営業部門」と「生産管理部門」です。
ですが、製造部門が困った時に直接的に助けてくれるような部門ではないですよね?
あまりに反発が多いようであれば、品質保証部に助太刀してもらいましょう。
製造品質アップと製造部門の理念統一という大義のもとで。
製造現場の現状を嘆いているあなたであれば、どこかでこのような大ナタを振るわないと好転する可能性は低いことは十分認識していることでしょう。
まずは製造現場の文化を変えてしまうことを優先し、その後は統一された信念のもとにコストと納期のレベルをあげていくことが「強い製造部門」を作ることになります。
さいごに
設計された製品を忠実に再現できる製造部門はとても頼りになりますし、会社としても大きな武器として対外的にもアピールできます。
IoT機器がたくさんあるんです!
こんなにたくさんロボットがあるんです!
なんてことは、金さえあればどの会社でもできること。
どんな立派な設備でも使う人の「製造マンとしての意識」が低ければ、宝の持ち腐れ。
それよりも
「ウチの製造部門は要求された機能をどこよりも忠実に、そして継続的に再現することができる人材がそろった集団です!」
と言った方が取引先に対しての信頼性は高いし、現場担当者のモチベーションも高まると僕は信じてます。
あなたの組織もそんな集団になれるよう頑張ってください!
もちろん僕もがんばります!
おわり
コメント