- この記事を読んでほしい人
- ・品質保証部門は、なぜ独立性が必要と言われているのか知りたい
・品質保証部門は、独立性がないとダメなのか?
当ブログでは、これまでに製造業の品質保証の仕事について多くの記事を投稿しています。
今回の製造業の品質保証に関する記事のテーマは「品質保証部門の独立性」についてです。
これまでも別のテーマ内で少し触れたことがありますが、今回はこれに特化してみたいと思います。
僕の20年以上の製造業経験上、多くの企業では品質保証部門を「製造部門やサービス部門とは別の独立した組織」としています。
また実際に、
「品質保証部門は、第三者的な組織体系でないといけない」というような言葉を聞いた方、自分でもそう思っている方も多いのではないでしょうか?
品質保証部門が「独立した組織でないけない」と言われるのは、以下の2つが起因しています。
- 「コスト」と「納期」を追求する仕事と、「品質」を追求する仕事は利害が一致しにくい
- 「コスト」と「納期」は、「品質」よりも顕著に、そしてすぐに市場が反応する指標
このことから、品質保証部門を独立した組織にすることで会社全体の「品質」、「コスト」、「納期」をバランスさせたいという思惑があるわけです。
少し詳しくみていきましょう。
品質保証部門は独立性を持つべきと言われる理由
「品質」という指標は、「コスト」や「納期」とトレードオフの関係にあると考えていいでしょう。
例えば、ある一般的な生活用品で他社の製品よりも高い品質(壊れにくい、機能が豊富、外観が綺麗など)を確保したいケースで考えてみましょう。
・壊れにくいように高コストな材料を使う、材料の量をケチらない
・機能を追加するために、電子回路などの部品を追加する
・外観品位を高めるために、塗装にコストをかける
・特殊な製造方法が必要なため、加工費が高くなる
というように、狙う品質を確保するために原価が高くなってしまう要素が満載です。
問題は、原価が高くなってしまっても「品質が良いから」という理由でお客様が製品やサービスを購入してくれるかどうか。
購入価格が高くても、品質の良さを重視して購入するお金に余裕のある層が多いモノやサービスなら大丈夫でしょう。
しかし、
一般的な生活必需品や消耗品、参入企業が多い分野の製品やサービスの場合は価格競争が起きますよね。
同じようなモノならなるべく安く買いたいし、定期的に買うモノならなるべく節約したい。
そういうモノやサービスを扱う企業では、低コスト化は非常に大きなミッションのひとつです。
安くないと売れないから、安くしないといけない。
開発陣も、製造部隊やサービス部隊もなるべくコストを抑えようとするでしょう。
それが市場が求めているものであり、経営陣の思いでもありますから。
コスト削減のためには、例えば以下のような方法をとることがあります。
・開発費用を抑えるために、試作数量を減らす、信頼性評価項目を簡素化する
・耐久性や見た目を切り捨てて、バラツキの大きい安価な材料を使う
・製造コストを下げるため、作業スピードを上げて作業員を減らす、単価の安い経験の浅い労働者に入れ替える
ただ、品質保証の観点で見るとこれらは品質悪化のリスク満載となります。
では「納期」はどうでしょうか?
品質を重視すれば、
・試作品の設計や評価に期間を要するため、開発期間が長くなる
・特殊な製造プロセスを踏むがゆえに、製造リードタイムが長くなる
・多くの品質検査項目により、製品をすぐに出荷できなくなる
というように納期が遅くなる(=時間がかかる)状況に陥りやすいです。
売りたい時にモノがないから売れない、モノさえあれば売れる状況なのにモノがない
こんな状況は、組織としてはなんとしても避けたいところでしょう。
開発陣はリリース日を遅らせるわけにはいかない、製造部門はリードタイムを短くしたい、営業部門は早く売れるモノが欲しい・・・
そんな状況がエスカレートしていくと・・・
本当ならやらなければいけない作業を「意図的に、または意図してないつもりなのに(無意識で)」省略してしまう可能性が高まります。
決められた時間できっちり実施すべき作業を短時間化することで、うっかりミスする可能性も高まります。
これらも品質悪化の大きな要因ですね・・・。
それに加えて、
冒頭でも述べたように「コスト」と「納期」は、「品質」よりも顕著に、そして素早く市場が反応する指標です。
価格が高いと市場が判断すれば、モノやサービスは売れにくくなり、売り上げ減に直結します。
途中で値上げしようもんなら、取引先やユーザーからすぐさまクレームが出るでしょう。
納期が遅れれば、ユーザーの生活にすぐさま影響を及ぼします。
納期が遅い、守れない企業はすぐに他社に乗り換えられてしまうでしょう。
一方の品質は、手を抜いてもすぐに影響が出にくい場合が多いです。
多少設計や製造で手を抜いたとしてもパッと見で分かりにくい…
設計や検査に手を抜いたとしても、運よく何も起こらないこともある…
ここまでの内容を読んだみなさん、
製造部門やサービス部門の中に品質保証の機能を入れ込んでしまうと、自部門の状況によって品質保証の基準が緩んでしまう可能性があると思いますよね?
つまり、
品質保証部門の独立性を重んじる組織は、製造部門やサービス部門だけに任せると「品質」が疎かになる懸念があるのです。
よって、
「コスト偏重」や「納期偏重」になって会社全体として大きく品質が低下しないように、
「品質」を追求する部門を独立機関として設置し、
「品質」と「コスト」と「納期」の勢力を均衡させてバランスをとっているのです。
(司法・立法・行政の3権分立と同じですね)
品質保証部門は独立性がないとダメなのか?
品質保証部門は独立した組織でないとダメなのか?というと、僕は必ずしもそうとは思いません。
以下のような組織の場合、品質保証部門に独立性がなくてもいいと思います。
- 経営判断として、品質よりも「コスト」、「納期」を優先すると決めた組織
- 製造部門やサービス部門など各部門で適切に品質、コスト、納期のバランスが取れる組織
「品質が他社より多少劣っていても、コストと納期を重視するんだ!」という経営判断は間違っているとは思いません。
経営方針はハッキリと分かりやすい方が、組織の人間は方針に従って動きやすくなります。
結果的に市場に受け入れらると判断するなら、余計なところにリソースを投入せずにコストや納期に全集中した方が良い結果がでる場合もあるでしょう。
次に、
製造部門やサービス部門など各部門で適切に品質・コスト・納期のバランスが取れる組織であれば、品質保証部門は必要ありません。
優秀な人材を適切に育ててきた組織の文化の賜物です。組織のスリム化の観点からも理想的な状態だと僕は思います。
わざわざ品質保証部門を独立して置くという行為は、人材配置にムダが生じやすいです。
現在品質保証部門を独立させている組織は、ゆくゆくは品質保証部門を廃止することを目指して教育に力を入れていくのもいいんじゃないでしょうか?
さいごに
品質保証部門が独立した方がいいと考えている組織は、
製造部門やサービス部門だけに任せると「品質」が疎かになる懸念がある
と考えているからです。
これは間違いではありません。どちらかというと独立させている方が多数派だと思います。
現在の組織の性質状、このような組織体系をとらねばならないという企業が多いということの現れでしょうか…。
一方で、組織のスリム化や人材の有効活用の面から考えると、品質保証部門のリソースは開発部門や製造部門に統合した方がいいと思います。
ただし、各部門で「品質」と「コスト」と「納期」のバランスを最適化できる人材や文化があることが前提です。
品質保証部門に属する人は、後者を理想として日々の業務に励むことがよいのではないかと僕は思います。
おわり
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