■この記事のターゲット
・中国の製造工場(EMS、サプライヤ)の品質確保に苦労している日本企業の方
・これから中国企業と取引を始めようとしている日系製造業従事者
今回の記事は、僕がこれまで仕事で幾度も訪れた中国の製造工場の実態と彼らとうまく付き合って製品やサービスの品質を確保するためのヒントを実体験をもとに共有したいと思います。
さて、日本人が抱く中国人のイメージと言えば
・マナーが悪い
・嘘をつく
・自分勝手
というようなネガティブなものを連想しがちかと。
たしかに見方によってはそういう一面もあると思います。
ただ、誤解しないでいただきたいですが、彼ら中国人は悪人ではありません。
普段の素の生活がそういうものであり、彼らの文化なんです。
過去記事でも述べたように彼らの国民性や文化的背景を知り、日本企業を相手にするような対応から切替ていかなければ、相当な苦労をすることでしょう。
中国製造工場の品質の現実
実際に中国の製造工場と取引のある方は体感していると思いますが、中国現地工場の現実は以下のようなものです。
■従業員が定着しない
まず第一に直面するのが、従業員がコロコロ変わるということです。
中国の祝日である春節(2月の旧正月の長期連休)や国慶節(10月の長期連休)前後で、大量の離職者がでるのは過去から現在も続いています。
色々現地で聞いている限りだと、平均で20%の従業員が離職し、多い時は40%近くの従業員が離職したというのも聞いたことがあります。
中国の工場運営者は、離職者も見越した採用活動や福利厚生向上にも頭を悩ませてます。
当然、生産性や品質にも大きく影響します。
労働者が、給料の安い工場から上海・深センなど都市部の企業や国営企業、外資企業のような給料の良い会社へステップアップ転職していく構造は、中国の文化として捉えないといけません。
というより、これが普通で日本のこれまでの労使関係が世界的にみてもめずらしいケースでしょう(それでも中国の離職率は異常に高いと思いますが・・・)。
■作業環境が劣悪
(対象的に巨大資本の入っている精密機器メーカーはとても良い環境)
物の置き場所が定まっていない、乱雑にものが置かれているというのはよく見かけます。
このほかにも
・エアコンが無く、窓が開けっぱなし
・床が水浸し
・全員私服で作業
ということもよくあります。
取引を始める前に、まずは従業員が働く環境をチェックしてふるいにかけましょう。
「ISOなどの規格を持ってる持ってない」、「有名企業との取引実績がある」だけでの判断は、後で痛い目を見ることになるでしょう。
■基本、取引先の利益を考えない
彼らは、こちらの利益がどうなろうと知ったことではありません。
Win-Winの関係を説明しても表面上は理解した風ですが、行動は伴いません。
彼らは彼らの会社、組織、個人の利益を最優先します。
■品質改善の意識が薄い
すべての企業とは断言できませんが、これまで携わった多くの企業は自社工程内や市場での不具合について、さらに改善していく意識は薄いです。
不良品がでれば、良品と差し替えればいいというのが基本スタンスになっています。
もちろん、自社工程内での良品率向上やフィールドクレーム削減により事後対応コストを減らすという意識の経営者もいますが、経験上まれなケースです。
上記のような状況は少しずつ向上してきているように見受けられますが、まだまだな企業もたくさんあります。
日本では考えられないようなことが起こる
これは中国企業に限った話ではありませんが、発展途上国を相手にしていると現代の日本では考えられないようなできごとが起こり得ます。
工程飛ばし(未加工、未検査)は、日常茶飯事。
監査で後ろに監査者がいるのに作業手順書を守ってないこともありました。
ちなみにフィリピンやベトナム、タイやマレーシアあたりでは比較的規律を守るほうかなと思います。
以下に僕がこれまでにびっくりした事例を共有します。
・梱包箱にカッターナイフの刃やライター、たばこ、お菓子の食べカスが混入したまま出荷
・紙コップで水を飲みながら製品の検査を行っている
・製品に卑猥な落書き(男性器の絵)があるものが出荷された
・NG品と書かれた箱で実際に不良品が出荷される
・部品や製品の盗難が頻発
工場の門では警備員が金属探知機をもって検問してたりします。
工程に入る際には私物はすべてチェックされ、預けなければならない工場もあります。
というように、良くも悪くも海外ではいろんなことを経験できます。。。
日本企業と同じアプローチ、固定観念は捨てよう
日系企業のように自律改善は望めないと思った方がいいです。
(すべての企業がそうというわけではありませんが、経験上大半です)
工場の作業者は自分の作業が会社全体に対してどういう意味をもっているのか、どうすれば品質向上に貢献できるかという意識は日系企業に比べて圧倒的に不足していると考えます。
いかに楽に、いかに稼げるかという意識(悪い意識というわけではありません)が強く、会社のルールを守ってくれる・日本の常識を理解してくれるというような淡い期待を抱けば抱くほど、がっかりすることになるでしょう。
最初に回答してくることはウソと思え
彼らは体裁を取り繕うことには慣れています。
不具合の報告書はそれなりのモノが出てきますが、これも現実は実施していないことが多いのです。
第三者による現地確認や、実際に出向いて直接確認する機会も設けないとウソの上塗りになっていきます。
すぐに出向くことが困難な場合は、少なくとも証拠写真や対策の効果確認結果をださせるくらいは必須です。
現地に出向かないと舐められる
いきなり日本からの遠隔操作でコントロールできると思ったら大間違いです。
実際に、現地の人との会話の中では現地に出向いてこない取引先の優先順位は下げられる傾向にあります。
彼らもある程度の「義」をもって我々と接してきます。
最低限、Face to Faceで主張をぶつけ合わないと「義」すら生まれません。
わざわざ現地に訪れ、誠意をもって自分の主張をすれば、何もしない場合よりは誠意を感じ取ってくれます。
また、彼らは客人に対するおもてなしの意識は強いです。
接待になれば食べきれないほどの料理が出てきますし、ぶっつぶれるくらい酒をすすめてきます。
これは中国式のおもてなしであり、これを無下にすることは彼らのメンツをつぶすことになります。
それだけは避けねばなりません。
理由は過去記事を参照ください。
食事は食べきれず残すことが「もうお腹いっぱい」という意思を表すことになり、良しとされます。
お酒は乾杯を求められたら、頑張って応じるようにしましょう。
もちろんお酒の弱い人は事情を説明すればわかってもらえますが、当然飲める人だと仲良くなれるので、お酒が苦手な人は代わりにお酒に強い人を同行させるとよいでしょう。
アメとムチでは、アメが重要
合理的な行動をする彼らを動かすには、動かすための動機付けが重要です。
発注の数量、単価などのビジネス的なインセンティブはもちろんのこと、それ以外にも他社の動向や技術、ノウハウなどの情報を与えるなどの我々と付き合いすることの旨味を示す必要があります。
当然、将来的に自社を苦しめるような機密情報や特殊技術の流出は慎む必要があります。
ポイントポイントで、人に頼らない生産性向上の施策を提案してあげるとよいでしょう。
例えば、中国の工場でよく見られる不具合対策として「検査工程を増やす」があります。
何か問題が起これば、通常の検査工程に「もう一人検査者を追加します!」と。
さらに不具合流出が起これば、「出荷前にもう一人検査者を追加します!」というようにどんどん人を増やしてきます。
彼らには「有効な発生対策」や「人に頼らない不具合検出の工夫」が見られないケースがよく見られます。
そこで、こういう設備や治工具を導入すれば発生対策できて無駄な人員削減できるでしょ?
と具体例をあげて、その提案が彼らの利益になることを十分に説明してあげるとよいです。
検査者が増えて工程が増えると、逆に要らぬヒューマンエラーによる品質リスクを背負いこむことにもなり得ます。
プライドをくすぐる交渉や駆け引きが重要
まず落とすべきは、できるだけトップに近い幹部です。
彼らは自分のポジションを左右する権力者に対しては非常に従順です。
これを利用しない手はありません。
例えば、中国企業の幹部に対して
あなたの会社は、他の取引先(中国企業)の製品品質と比較するとダントツで悪く、正直失望している。
マネージメントができていない!というような若干煽るような言葉をデータを背景に主張しましょう。
プライドが高い人が多いので、対抗心を煽るというテクニックもおりまぜましょう。
ただ、その際にはできるだけ少人数(もしくはマンツーマン)での打ち合わせの場で述べましょう。
相手の幹部の部下がたくさんいる前で叱責すると大勢の前でメンツを潰された形となり、ヘタすれ恨みを買うことにもなりかねません。
うまく幹部のプライドをくすぐることができれば、末端の人間へ指示が飛びます。
権力者の命令は絶対です。逆らうと減給やクビが瞬時に決まります。
自分の利益を守るために行動する中国人の行動力は、正直見習うべきところもあるくらいです。
・キーマンとなる幹部とつながり駆け引きをすること
・プライドに火をつけて組織に対して大号令をださせ、自律活動させること
これができれば大したものだと思います。
データで逐一監視していることを植え付ける
ある程度信頼関係が得られたら、その中国工場の品質データと受領側である日本側での品質データを逐一共有して手綱を緩めないようにしましょう。
人が代わったり、手綱を緩めたとたんにこれまで積み上げてきたものの崩壊が始まります。
こちらサイドが関与してこないことが分かってしまうと、好き勝手が始まってしまいます。
数字は嘘をつきませんし、捏造しても数字がそれを証明してくれます
さいごに
中国に限らず海外の企業と長く良好な付き合いをしていきたいなら、その土地の文化や歴史的背景、国民性を理解しておくことは、ビジネスに大いに役立ちます。
また我々の考え方の幅も広げてくれるので、投げやりにならずに真摯に向き合うと自己の成長にも大きく寄与します。
仲良くなると、日本で大きな災害などがあった時は取引先からメールで安否の心配もしてくれるようになります。
彼らは文化が違うだけで同じ人間です。
結局はどれだけ良好なコミュニケーションがとれるか。
相手を変えることはすぐにできません。
まずは自分が相手を知り、相手の土俵で試行錯誤することです。
妥協や折れることはすぐにしてはいけません
舐められて、つけこまれていくだけです。
しっかり主張をぶつけ合うことができれば、中国人もこちらを認めてくれるようになります。
実際に僕もマンツーマンで口論したあとに、その中国人から
「僕は自分の言いたいことは言わせてもらうけど、あなたも本音で主張してくれて嬉しかった。中国人は喧嘩のあとくされはないから、言いたいことはぶつけてくれ」
と言われたことがあります。
正直、嬉しい気持ちになりました。
ただ、それで手を抜いてはいけません。もしかしたら相手の計算された甘い言葉かもしれません(そうとは思いたくないですが)。
それくらいの気持ちでぶつからないと、競争社会で育った彼らと渡り合うことはできないのかもしれません。
強い気持ちで頑張ってください!
おわり
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