■この記事のターゲット
・自社工場内のヒューマンエラーで品質が上がらず困っている工場関係者
・不具合対策を追加しても定着せず再発を繰りかえし、嫌気がさす品質保証部員
・どういう方針でラインオペレーターを統率していくか迷っている製造関係者
製造やサービスの品質を作りこむために、現場ではITやロボット、AIなどの活用が進んでいます。
それでも、まだまだ人間が品質を左右するという現実は変わっていません。
どれだけデジタル技術、ロボット技術が進化しようとも、そのシステムを人間が構築している以上、品質は人間に左右されるのです。
将来AIが自我を持ったときに、初めて人間が関与しなくなるかもしれませんね。
とはいえ、それは「マニュアル通り動かないAI」となるため、人間はストレスを感じるようになる可能性も大いにありますが。
少し話がそれましたが、現在は製品やサービスの品質を作りこむのは結果的に人間です。
要求された通りの製品づくりを常に考えている人
隙さえあれば楽して手を抜こうと考えている人
などいろんなタイプの人間がモノづくりやサービスに関わっています。
製品やサービスの品質確保、または高めるためには、価値観が異なる人間をコントロールする「組織内の仕組」が必要になってきます。
今回の記事では、品質確保・向上に向けた仕組や対応についてのヒントとなるべく
・人間を「性善説」で考えた場合
・人間を「性悪説」で考えた場合
2つの観点から考察し、それぞれの対応方針を提案をします。
【提案の概要】
■性善説に基づく対応方針
従業員が、決められた手順以外で気をつかっている善意をさらに発揮しやすくする
メリット・デメリット:投資は少なくて済むが、短期的には品質が「人に依存する」ため比較的信頼性が低い
不具合を出してしまった時によく見られる対策で「手順書を改訂し、作業者への注意喚起と作業教育を実施」というのは性善説に基づいた発想であり、客観的に考えると「人任せ」なので信頼性が高い対策とは言えません。
■性悪説に基づく対応方針
従業員が、プロセスの抜け穴を塞いで決められた手順を違反できないようにガチガチに固める
メリット・デメリット:比較的投資にお金がかかるが、短期的に品質が「人に依存しない」信頼性が高いプロセスを構築することになる
会社で働く人たちの風土がどちらに適しているかは企業によりますが、2つの方針がバランスよく具現化されているシステムが理想です。
ですが、それぞれのいいところだけとって万事OKとはならないのが現実です。
そこで管理監督者の腕の見せ所となるわけです。
「性善説対応」と「性悪説対応」の比率次第で、企業の風土が決まるといってもいいのかもしれませんし、
どちらのタイプの従業員が多いかで、対応の比率を変えていかなくてはいけないと考えます。
つまり、管理者は「個々の人間性」と「集団としての性格」それぞれを把握しておく必要があるという事です。
性善説、性悪説と品質
ご存知のことと思いますが、
性善説とは簡単に言うと、人間を「善意に基づいて活動する生き物」と捉えることです。
例えば、
ホテルで財布を落としてしまった! → 誰かがロビーに届けてくれるだろう
ちょっとおつかいに行ってきて! → 必要なものだけを買ってお釣りは返してくれるだろうから、とりあえず3000円渡しておこう
フタAを箱Bにはめて出来映え確認して! → 決められた手順を守ってくれるだろう
といったように、人間は生来「善意を持った生き物」と考え、良心的な部分を期待した考えです。
対照的に性悪説は簡単に言うと、人間を「悪意に基づいて活動する生き物」と捉えることです。これを先ほどの例で考えると、
ホテルで財布を落としてしまった! → あぁ、もう中身が戻ってくることは無いな
ちょっとおつかいに行ってきて! → 余ったお金で余計なもの買うだろうから、2500円だけ渡そう
フタAを箱Bにはめて出来映え確認して! → 出来映え確認しない可能性があるから検査装置を導入しよう
といったように、人間は生来「悪意を持った生き物」であると考え、悪意を警戒する考えです。
個人的には、以下のように考えます。
善意や悪意=教育や育った環境で醸成される後天的な物
どちらが良いか悪いかを議論しても今回のテーマとは趣旨が違いますので、
製品やサービスの品質を確保または向上させていくためには「性善説の観点」と「性悪説の観点」を心にとどめながら対応策を考えていくといいでしょう。
今では少なくなったのかもしれませんが、「滅私奉公タイプの日本人」は性善説、「自己の利益にフォーカスするタイプの中国人」は性悪説に基づく対応となっているように思えます。
どちらも「一長一短」であり、どちらが「良いか悪いか」ではありません。
個々が持つ個性であり、育ってきた文化の違いです。
近年は、文化の多様化や日本国内で働く外国籍の方も多くなっているので、性善説一辺倒のやり方では品質維持向上が困難な状況です。
性善説に基づく品質向上対応策
人間の良心を期待し、良心をくすぐってパフォーマンスを上げていくための対応を提案します。
日本人としては、すでに根底にある考え方と思われるので一般的ですし、理解を得られやすいでしょう。
作業者の負担を軽くしてあげる
品質意識の高い作業者は業務プロセスにおいて、手順書やルール化されていない部分を良かれと思って気を遣って作業しています。
これはこれでありがたい話ではありますが、改善すべきポイントが見えなくなってしまうという一面もあります。
そこで、手順書やルールで規定していない「作業者の善意」で行われている作業や判断をヒアリングと現場作業観察しながら抽出し、今まで見えなかった部分を標準化、自働化、見える化して
作業者さんの心身の負担を緩和してあげましょう。
心身の負担を無くしてあげると、品質意識の高い作業者さんは「さらに別の見えない部分」に善意を向けて作業します。
そして、別途その見えない部分を改善してあげることでプロセスの信頼性が上がっていくでしょう。
これを延々と続けていけば、その作業者さんの仕事は機械にとって代わるかもしれません。
そうなれば、その作業者さんは品質管理のみをしてもらえばよくなるわけで管理者候補になれますね。
作業者の善意が形やデータで見えるようにし、労をねぎらってあげる
作業者さんの善意に頼ることも悪くないですが、「ちゃんと見てあげてるよ」ということを伝えないままでいると、どこかで「ここまでやってあげてるのに」という不満に変わります。
厳密に言うと、決められた通りの作業以外のことをやってるので不満と思われても困るのですが・・・。
(潜在している問題点が顕在化しないから)
そうならないためにも、比較データや前述の見えない作業の抽出の際に、データを基に作業者さんを皆の前で褒めることが大切です。
「あなたのおかげで品質が保たれていたんだよ」と。
とうぜん評価(給与や地位)に反映してあげることがベストですが、まず大事なのは褒めることです。
褒めてあげれば、さらに自分の特徴を活かしてレベルアップを図っていくでしょう。
このサイクルを繰り返していける組織の仕組づくりが重要です。
性悪説に基づく品質向上対応策
人間の悪意や怠惰を警戒し、逆にその特性も利用する対応を提案します。
日本人には一般的になじまないように思いますが、その企業内外の環境によっては使いこせるケースもあるでしょう。
なお外国籍の労働者は、報酬が見合っていれば受け入れられるでしょう。
(そういうドライな文化圏が多いので)
手順やルールを無視した場合は罰則(ペナルティ)を与える制度にする
これは中国の工場でよくみられた制度です。
重大な不具合を起こすと、発生させた従業員は罰金または最悪クビになります。
多数の企業と労働人口を持ち、基本他人に関心がない中国ならではの方法ではありますが、「信賞必罰」という意味では究極のシステムと言えるでしょう。
信賞必罰:功績を残したものは讃えられ、罪を犯したものは罰せられるという意味
日本人には適さない可能性がありますが、比較的給料が高い企業など環境によっては効果を発揮す
ると思います。
逆に、外国人には比較的受け入れられやすいと考えます。
しかし罰金というわけにはいかないでしょうから、人事考課や雑務などでペナルティを与える程度にとどめておくべきでしょう。
ちなみに、この場合は証拠をつかまないといけないので、「誰がどこで手順を守らなかったか」が検出できるような仕組みにすることが大切です。
中国の企業では監視カメラを多数設置したり、入退出時の持ち物チェックをしたりと人間の悪意に備えた対応がよく見られます。
無論、行き過ぎると従業員の忠誠度が下がってしまうので、アメとムチのバランスが重要なのはご理解いただけると思います。
どこがギリギリのラインかは企業文化にもよると思うので、制度化する場合はもちろん上層部を交えるべきです。
手順飛ばしや期待値に満たない作業だと、その場でアラームがあがるように
費用はかさみますができる限り、
・ある作業を行わないと必ず次のステップや工程に進めない
・ある作業の結果が規定の範囲内を超えるとアラームがあがる
というシステマチックな仕掛けを導入することです。
画像検査結果や重量変動の有無チェック、ログデータの照合などの作業者に依存しないデジタル信号をキーとしたものなどが該当します。
前述のとおり投資が必要ですが、それに見合って「誰がやっても不良品が流出しにくい」信頼性の高い工程になります。
ただし、どうしても現実はイレギュラーな事象が起きます。
システムでガチガチに固めた工程は、そういうイレギュラー発生時に工程やサービスの継続が不可能になるケースもしばしば見られます。
どういったイレギュラーが起こり得るのかを想定し、信頼性の高い復旧方法を定めておくことも必要です。
現場任せで復旧させていては、せっかくのアラームが形だけのものとなってしまい、「アラームが出てもこっちで復旧させればいいや」というマインドが予期せぬ不良流出を生むことになります。
プロセスの抜け穴を見つけた場合は報償対象とする
設計されたプロセスの穴を見つけて手を抜く人は、そのプロセスの穴を見つけるのも得意です。
なぜなら、できる限り労力を使わずに1日を過ごして給料を得ることを重視しているからです。
この考え自体は否定されるべきではありません。
その個人にとっては、少ない労力で報酬を得られるので理にはかなっています(会社的には困りますが)。
プロセスに穴を作っている工程設計の責任の範疇です。
逆に、プロセスの穴を見つけて報告してくれたら報奨対象として内容に応じた金一封を与えるくらいの仕組みとすれば、得意分野を活かしてお金を稼ぎまくってくれるでしょう。
実際にこのような制度をとっている工場も見たことがあります。
長期の従業員雇用を念頭においているのであれば、品質向上への意識を植え付ける教育・指導を全社的に行うことで、自主的に品質向上を行う組織へと体質を変えていくといいでしょう。
性善説対応と性悪説対応それぞれに適した人材像
これまで述べたような対応は、推進していくための人材もタイプによって得手不得手があります。
私の持論は「適材適所と成果に見合った報酬」が、働く個人と属する組織が活気にあふれて成長していく一番の方法だと考えます。
「性善説対応」と「性悪説対応」にもその対応の性質に見合った人材をあてがうと良いでしょう。
例えば、
お人好しで人に厳しくできないタイプの人が、人を疑いルールで厳しく縛る仕組みを定着させるには不向きであることは十分想像できることです。
もちろん、両方の対応において「物事をデータや状況から客観的にみれる」というのは必須の要素です。
推進する人の感情が乗りすぎてしまうと、従業員を働かせすぎたり縛りつけすぎたりする恐れがあるためです。
二通りの対応をバランスよく進める場合は、それぞれの人材がその場面場面で先頭に立っていき、その上の管理者は反応を俯瞰して調整していくことが理想です。
■性善説に沿った対応推進に適した人材像
・めったに人を批判しない人
・他人の善意を素直に感謝できる人
・自分以上に部下や周りの人の成長に喜びを感じる人
対する相手を褒めて、時には愛のある叱咤をする情熱的なプロセス主義タイプが適していると考えます。
■性悪説に沿った対応推進に適した人材像
・ルールを重視し、違反者には躊躇なく厳しい対応が取れる人
・他人からの批判の目に動じることがないメンタルを持った人
・自分の成果を上げることに重きを置く人
対する相手を厳しい視線で監視し、プロセスの穴を破られることを許せない冷静沈着な原理主義タイプが適していると考えます。
働きすぎ、縛りすぎによるメンタル疾患への配慮
途中でも述べたように、良かれと思って推進している対応が、従業員を働かせすぎたり縛りつけすぎたりすることも考えられます。
例えば、
性善説に基づいた対応がうまく行くと、頑張り屋さんの従業員は期待に応えようと頑張りすぎてしまい、自分のキャパオーバーの業務を抱えてしまうかもしれません。
一方で、
性悪説に基づいた対応が定着すると、縛られすぎた従業員が精神的ストレスを抱えたまま業務をしているかもしれません。
最悪の場合、どちらの対応でもメンタル疾患者が出てしまう可能性もあります。
メンタル疾患になってしまうと、患者本人はもちろん、周りの人間や会社もダメージを受けます。
そうならないためにも、会社として従業員のメンタルヘルス監視役の部門を定めて
・残業時間の監視
・ストレスチェックの実施
で網を張っておくことが重要です。
まとめ
管理監督者は、対応の推進による従業員の反応を俯瞰しバランスをとる。
テクノロジーが進化しても、まだまだ品質は人間に左右されます。
しっかりと「人」を見て、適材適所含め個々の状態に合わせたケアができる会社は従業員が自律して成長していくでしょう。
管理監督者は「従業員が充実感を持ち健康的に働ける環境づくり」に専念していただければと思います。
おわり
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