- この記事を読んでほしい人
- 製造業やサービス業の品質保証部門の方で・・・
・品質保証部門も製品やプロセスの設計にしっかり入り込むべきなのか?
・品質保証部門は、開発部門や製造部門なみに固有の技術や専門的知識を持つべきなのか?
当ブログでは、製造業の品質保証部門にお勤めの方に向けた記事を発信しています。
過去記事でも何度か触れていますが、製造業やサービス業などの品質保証部門に求められる役割の一つとして、
「第三者的な視点」で必要とされる品質を確保すること
があります。
今回の記事では、「第三者的な視点」を損なってしまう仕事の取り組み方について述べたいと思います。
結論としては、記事タイトルにもあるように
品証部門が(必要以上に)他部門に干渉しすぎないように
というものです。
製造業に20年以上従事し、開発や品質保証の業務を経験している筆者の教訓をもとに、これ以降で解説していきます。
品質保証部門がすべてを知りすぎてしまうことの弊害
品質保証部門は「品質」に関して、開発部門でもなく製造やサービス部門でない第三者的な視点で考える必要があると言われています。
僕の業務経験上からも「まったくその通り」と思っています。
その理由としては当ブログでも過去から述べていますが、
開発部門や製造サービス部門には
・技術的課題や開発費用、開発納期など
・製造コストや出荷納期など
といった「見えやすい、分かりやすい、問題がすぐに影響しやすい」指標があるからです。
そのような指標がある部門は、多くの場合で品質とコストと納期のバランス取りが難しくなります。
そのため、独立した品質保証部門が第三者的な視点からサポートする必要があるのです。
一方で、
品質保証部門はもっと「開発・設計段階から入り込め」、「製造の現場にもっと入り込め」ということも言われています。
これも間違いではないです。
ただ、この「入り込め!」を誤って解釈し実行してしまうと、
「第三者」ではなく「当事者」になってしまいますよ!
と言いたいのです。
例えば、ある製品やサービスを開発するにあたって品質保証部門が…
- 開発者なみに苦労や妥協した部分も含めて全貌を知る
- 下手すりゃ開発者よりも製品について詳しく説明できる
- こういう設計をしろ!と品証部門から具体的な指示を出す
みたいな状態であれば、もはや当事者と言ってもいいんじゃないでしょうか。
当事者になって何が悪いの?と思われる方もおられるでしょう。
自分の役割をしっかり自覚していて、冷静に第三者に徹するメンタルを持っていれば問題ないです。
しかし、多くの場合は
・内情を知りすぎて第三者視点が弱くなり、プロセスの抜け穴に気づきにくくなる
・本来の責任部門が「第三者へ説明する場」が減ることで責任部門自身での気づきの機会を奪う
・自部門の意図で設計しなかった部分で責任の所在が不明確になる
などの弊害が生まれ、中長期的に見ると品質リスクが高まります。
上であげた3点で、具体的にどうのような弊害がでるのか以降で説明します。
内情を知り過ぎてしまい、プロセスの抜け穴に気づきにくくなる
開発部門や製造部門の問題点や苦労、詳細のプロセスを知り過ぎてしまうと、本来第三者的な視点で見れば気づける可能性がある抜け穴(品質リスク)を見逃す可能性が高くなると考えます。
具体的に言えば、デザインレビューやプロセス監査などで品質リスクを検出しにくくなるということ。
その理由は、人間の脳は無意識のうちに既知の情報で足らない部分を補完するようにできているからです。
人間は、これまでの経験、受けた教育等により予測する能力を持っています。
この能力により、例えば手順書に載っていない部分や設計図面に記載されていない部分があっても、経験則や前後の情報に基づいて脳内で予測して補完して抜け穴を埋めてしまうのです。
その補完した内容に品質リスクが潜んでいなければ問題は発生しません。
しかし、
品質リスクが潜んでいた場合は、想定してなかった発動条件が揃うと品質問題が発生します。
これを防ぐために、品証部門は詳細情報を入れ過ぎず、第三者視点でのプロセスの抜け穴検出感度を維持しておく必要があるのです。
開発や製造部門の立場では「こんなこと当たり前でしょ!わざわざ図面に書く必要ないでしょ!」と思っていることでも、専門家でない人にとっては当たり前ではないかもしれません。
この認識の差が、設計側と製造側、さらにはユーザーとの認識の差となり、その差によって品質問題に発展するケースも少なくないのです。
責任部門の成長の機会を奪う
品証部門が、たとえば開発部門や製造部門のプロセスを熟知し過ぎると、質問する頻度が減るので開発部門や製造部門の人間からプロセスについて説明を受ける機会が減ります。
場合によっては、他の第三者(例えばお客様)から開発や製造のプロセスについて質問を求められたときに品証部門が答えてしまうこともあるでしょう。
つまりこれは、責任部門自身から第三者にプロセスや意図を説明する機会を奪っていることになります。
そうすると何が起きるか。
自分のことを他人に説明する(アウトプットする)ということは、自分のことをよく知っておかないと正しく説明できません。
自分では分かっているような気になっていても、第三者からいろんな質問を受けることで改めで見つめ直し、新たな気づきを得て自分自身の理解を深めていくというのが成長というもの。
その機会を奪ってしまえば、今回の例で言えば開発部門や製造部門自身の自己理解の機会を奪い、彼らの成長を阻害しているということになるのです。
開発部門や製造・サービス部門が自身の業務の本質に近づき、効率的にかつ効果的なパフォーマンスを発揮していくためのキッカケを潰しているという側面もあることを認識しておいてください。
自部門の意図で設計しなかった部分で責任の所在があいまいになる
開発部門や製造部門なみに専門知識や経験をもっている品証部門の方は、製品設計や工程設計などに直接指示してしまうことがあります。
それが完全に間違っているとは思いませんが、越権行為・内政干渉と言われればその通りです。
結果的に品質の良い製品やサービスが作り出されるのであれば、それはそれで問題ないとは思います。
ただ、設計者自身の意図が反映されなかった部分で問題が起きた場合、その部分での責任の所在が不明確になるリスクを孕むことは知っておくべきです。
品証部門が直接指示したプロセスの問題について対策を行う場合、誰が責任を負うのでしょうか?
餅は餅屋。その道のプロフェッショナルとして仕事をしている人たちに任せるべきです。
品証部門が思い描いたようには動いてくれないかもしれません。それでも、やるべき部門がやるべきことをやる。
関係する部門をうまくマネジメントすることも品証部門の役割と言っていいでしょう。
品質保証部門の最適な立ち位置は「第三者的立場」
第三者的な視点で見ると言っても、具体的にはどのような視点で見ればいいのか?
それは、
直接利害関係にある2者(当事者)の立場も理解しながら、
当事者間でトラブルやあと腐れがなるべく起きないように、
客観的データや要求仕様、法律(社内規定含む)に基づいて
妥当な提案を行う(時には拘束力のある決定をする)ことだと僕は考えます。
第三者視点で物ごとを見れるように統計、品質管理手法、未然防止手法、問題・課題解決手法、社内ルールを学ばなければならないのです。
ビジネスの3要素Q(品質)、C(コスト)、D(納期)のうち、Q(品質)に特化できる品質保証部門であるからこそ、他の部門以上に第三者視点を磨くために学ぶことが必要と考えます。
第三者的立場を忘れないようにするために
第三者的な視点で物事を観察するために必要な要素は、前の項で述べたような統計やQC手法を知識として理解することに加えて、経験(数々の失敗の積み重ね)も重要です。
しかし、経験を積んだ人間でも確認漏れや判断ミスをしてしまいます。
人間はミスする生き物ですから。
だから、世の中には重要なことを漏らさないように「チェックリスト(またはチェックシート)」という手法を使うのです。
分かり切ったことをズラズラを列挙したチェックリストを埋める作業って必要なのか?と思う方もいるかもしれません。
でも聞いてください。
チェックリストを埋めることが目的ではありません。
チェックリストで重要な着眼点や視点を思い出させ、その着眼点で観察して問題があるかどうかチェックし、問題があれば事故が起きる前に対処することが目的です。
たかがチェックリストと侮るなかれ。
第三者的な視点を忘れないための手法として、チェックリストは非常に有効な手法です。
自分が忘れたくないこと、他の人に忘れてほしくないことをリスト化し、複数の視点で見ることを忘れないようにしたいですね。
ただ、
項目が多くなりすぎると「埋めることが仕事」になりやすいので、重要項目を厳選してあげる方が良いでしょう。
さいごに
品証部門に必要なモノは、データ分析や様々な品質管理、未然防止の手法だけではありません。
第三者的立場を守り、関係する部門の成長を促すようなムーブメントに徹することも重要な役割と認識してください。
製品やサービスの固有技術などを勉強することも品質保証の業務にプラスにはなりますが、それは品証部門にとって最優先するものではないです。
客観的な立場で、データ活用や論理的思考で「問いかけ」や「アドバイス」ができる品質保証部門なら、関連部門から信頼を得ることができます。
その信頼関係ができれば、円滑な業務と高品質なアウトプットが自然と生まれることでしょう。
おわり
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