- この記事を読んでほしい人
- ・たびたび再発するクレームを撲滅したい製造業の方
・現場の従業員がルールを守らなくて困っている管理者の方
企業活動において製品やサービスを提供した後にクレームを受けることは、残念ながらゼロではありません。
数社に渡って長年製造業に携わってきた筆者の経験から言えることですが、多くの企業でも実態はそうじゃないでしょうか?
お客様からのクレームを限りなくゼロに近づけるため、過去の失敗を教訓に様々な対策を講じるわけですが、同じトラブルを何度も繰り返すこともよくあります。
クレームの共通原因は、社内のルールに関するものに集約されるケースが多いです。
①ルールを守っていなかった
②ルールが明確じゃなかった
③ルールが現実的でなかった
④ルール自体が存在しなかった
今回の記事では、最も重要だけどなかなか解決が難しい「①ルールを守っていなかった」について、その原因と対策を考察したいと思います。
じゃあ②~④は重要じゃなくてカンタンに解決できるのか?と言われるとすべてがそんなことはありませんが、何をすべきかは分かりやすいですよね?
ルールが明確じゃない → 明確にすればいい
ルールが現実的でない → 現実的にすればいい
ルールが存在しない → ルールを新たに作ればいい
っていうことになるわけですから。
製造やサービスの現場をよく知っている方なら分かってもらえると思いますが、
ルールを守らなかった → 守らせるようにすればいい
というのはカンタンなようでめちゃめちゃ難しいのです。
ルールがあるだけで、全員がルールを守ってくれるなら世の中に警察なんていらないでしょう。
ルールを守らない理由ってなんなんでしょう?
自分の胸に手を当てて考えてみてください。みんな知っているはずです。
ルールを守らなかった理由・・・それは、
じゃないですか?
この中で、「③ルールがあることを知らなかった」は全然問題ないんですよ。
ルールを知らなければ、これから知ればいいんですから。
問題なのは、①と②で「ルールを知りながらも守らないこと」です。
対策として「教育」や「再指導」では、根本的な解決にならないことは言うまでもないでしょう。
ということを踏まえて、
・ルールを守らない人の気持ち
・ルールを守ってもらうために
について考察していきたいと思います。
ルールを守らない原因
ここでは、冒頭に述べた「ルールを守らない原因」について考察していきます。
ルールを守ることで自分に都合の悪いことが起こるから
社内のルールは組織の秩序や製品やサービスなどの品質を守るためにあるもの
当然イチ個人のためにあるものではありません。
ルール自体に問題がある場合もありますが、ここでは触れません。
基本的には組織のためにルールを守ることで会社がうまく回り、最終的に従業員であるイチ個人に成果が還元されることを目的にルールが作られています。
「ルールが個人の信条や背格好にあわない」といったちょっとレベルの低い理由や、
「ルール通りやることで目の前の業務を非効率にしてしまう」というようなジレンマから個人的にルールを破るということがありえます。
前者の場合は組織を去っていただくのがお互いのためですが、後者の場合は意思疎通が必要です。
分かりやすい例で言えば、製造部門の中で
ある製品で「決められた出荷前品質検査」をしなければならないところを、コストダウンと納期短縮を理由に意図的に検査をしなかった
というような感じです。
ルールを破る気持ちも分からなくもないです。
コストや時間は誰にでも分かりやすく、製品やサービスのひとつひとつに影響するもの
毎日毎日プレッシャーが付きまといます。
検査をすっ飛ばしたからといって、全て不良というわけじゃないし、すぐにクレームが来るわけでもない。
コストダウンしろ!
納期を短くしろ!
という環境の中では、決められたルールを破ってしまうような誘惑と言うか圧力みたいなものが働くのが現実です。
しかし、
本来は「しっかりとルールを守って業務をすることでぶつかる壁」を明確にし、その壁を組織として乗り越えなければ組織が成長しません。
仮にルール違反がバレなかったとしても、そのツケは誰かがどこかで払うことになります。
その代償として会社が無くなってしまうことだってあり得るのです。
ルールを破ったことは良くないですが、組織の目の前の利益を求めてのことであれば無下に責めたりもできません。
きちんとルールを守ることは会社として成長していくために必要なんだということを従業員に理解させて、ルールを守ることで発生してくる問題や課題を明確にしていくことが大切です。
そして、
ルールを守ったうえで効率を高める方法(機械化含む)
または
ルール自体を変えて組織の基準を変えてしまう方法
をとるのが正しい改善へのアプローチになります。
ルールを守らなくても自分自身に大した影響がないから
人間は楽したい生き物。
めんどくさい事はなるべくしたくないですよね。
「ルールを守らなかったからといって自分に大きな影響はないし、怒られもしない、給料は普通にもらえるし~」
となれば、ルールを守らなくなっちゃいますよね。
みんな仏様みたいな立派な人ばかりじゃないんですから。
待つのがめんどくさくて赤信号の横断歩道だって平気で渡ったり、代行やタクシーを使うのをケチって飲酒運転したりする大人が一向に無くならない
というリアルな現実は、「ルールを守らなくても自分には影響がない」と思ってるからじゃないでしょうか?
そして自分が車に轢かれてから、または自分が人を轢いてしまってから、警察に捕まって罰金を取られてから
「ルールを守っておけばよかった・・・」
となっていくんでしょう。
工場での仕事に例えれば
置き場所が決められている小さな部品を、正しい場所に置かずに使用していた
↓
小さな部品が落下して製品に混入したまま出荷されてしまった
↓
混入した小さな部品が原因で火災が発生し、ケガ人が出た
くらいまでいかないと行動を改めないかもしれません。
痛い思いをしないと行動を改めない人というのは一定数存在すると思っています。
いや、むしろ大多数の人がそうでしょう。
だから多くの国では刑罰があり、警察が存在しているわけですよね。痛い思いをさせるために。
一般的な対策としては、
・ルール違反にペナルティを与える
・ルール順守を人に依存させない(機械化する)
といったようなアプローチになるでしょう。
「ルールを守らない」の対策を考察する
ルールを守らないことへの対策は一般的に以下のようなものが挙げられます。
注:人間に現行のルールを守らせるための対策ということで⑤は考察から除外します。
どれも正解のようにも見えますが、必ず成功するとは言い切れません。
小手先の対策では長続きしないですし、大掛かりな対策には過剰投資のリスクがつきまといます。
まずは先に述べた対策のメリットデメリットを整理します。
①教育、指導の頻度を増やしてルール順守意識を上げる
■メリット
初期コスト、ランニングコストが低く、容易に実施することができる
■デメリット
従業員が率先してルールを守るインセンティブになりにくく、多様な人間すべてに効果があるわけではない
クレーム対策の王道ともいえる教育、指導。
低コストな対策の基本中の基本ではありますが、手間暇かけない教育・指導では教育を受ける側に 「ルールを守らなければ」という想いは芽生えにくいでしょう。
手を抜いた学校教育で多くの優秀な学生が育つと思えないのと同じことです。
従業員に対してルールを守るという意識を上げたいなら、
- ルールを守らない背景な何なのか
- どういう方法で教育、指導すれば相手に伝わりやすいか
- ルールを守ることで組織や個人にどんな好影響を与えるか
- 組織が掲げる未来へのビジョンとのつながりがあるか
- 外国人労働者など文化が違う人には違った教育、指導のアプローチをとってみる
などにこだわって、教育する側が手間暇かけないと効果は薄いでしょう。
いや、手間暇かけたとしても効果は一時的、もしくは人によっては全く効果が無いかもしれません。
なぜなら、教育や指導によって期待する効果は、個々の人間の善意に依存するからです。
どこまでを善意というかは「人それぞれで大小様々」でしょう。善意の気持ちを全く持っていない人も残念ながら一定数いるのが現実。
かといって教育が不要かというとそんなことはありません。
教育は、組織の文化に影響します。長い年月経て、組織のおおよその体質を作り上げます。
学校教育同様、組織に属する人にとっては重要なのです。
自分の子どもが通う小学校や中学校の教育方針や教育内容と同じように考えれば、重要性はよく分かるんじゃないでしょうか。
教育や指導の効果は「しっかりとした教育方針」を持って、数年以上の長期的スパンで考えるべきでしょう。
組織の中で代々受け継がれ、教育を受けた人間が後輩の教育を行い、教育方針に合わない人間は少しずつ淘汰されていき、残った人間の中で文化・習慣として根付いていくものと考えます。
② ルール違反者に罰則(ペナルティ)を課す
■メリット
従業員が率先してルールを守るインセンティブとしては比較的強い
■デメリット
・従業員に精神的なプレッシャーがかかる
・罰則逃れのためのウソが横行する
・罰則の噂が組織外に広まると人材が集まらなくなる
ルール違反者に罰則を与えるというのも、一般的によくとられる対策です。
(中国企業ではよく見かけました)
学校などでは、校則違反者には停学や退学のような処分が、一般社会で言えば法律違反者には罰金や禁固刑があるのと同じです。
権力者が権力を使って、圧力をかけてルール違反を抑制するという考え方ですね。
教育や指導と違って、ルールを守らなければ従業員自身に直接影響するペナルティを課すため、ルールを守らせる動機付け(インセンティブ)が強いことが最大のメリットでしょう。
ただし、
効果が強い反面、それなりのデメリットもあることを意識しておく必要があります。
違反者にペナルティを課すためには、従業員を監視しなければなりません。
まずここで、監視のためのコスト(カメラ、センサー、人件費など)がかかってきます。
そして、監視されていることが分かっている従業員の多くは、プレッシャーを感じながら作業することになります。
精神的なプレッシャーを感じながら業務を続けていくと、数%の割合で必ずメンタル不調を起こす人が出てきます。
メンタル疾患などで長期休職にでもなれば、組織も個人も経済的なダメージを負うというリスクもある諸刃の剣。
加えて、罰則から逃れようとウソをつく人、責任転嫁をする人も出てくるでしょう。
例えば、交通事故で10-0で自分が悪いのに、費用負担を減らしたいために
「自分のせいじゃない!相手にも○○な過失があった」
というウソをつくみたいなもんですよ。
ウソをつかれると問題の真の原因が分からなくなってしまいます
真の原因に対策が打てていないなら、問題は再発すること間違いなしです。
ウソにウソを塗り重ねて真実が見えなくなると、組織の正しい舵取りができません。
ペナルティの制度は、ウソをつく文化が定着してしまうような制度設計にならないようなサジ加減が必要です。
また、罰則があるということが外部に漏れると噂が広まって、優秀な人材があつまりにくくなる恐れもありますよね。
イヤ~なペナルティがあるということが分かっている組織に入りたいという人は少ないんじゃないでしょうか。
罰金などの経済的ダメージや地位、名誉を傷つけるようなペナルティの導入は慎重に!ということです。
③ルールを守ることに対して報奨をあたえる
■メリット
従業員が率先してルールを守るインセンティブとしては比較的強い
■デメリット
・報奨のためのコストがかかる
・制度設計をしっかりしないと組織内で格差が生まれる
前述の罰則(ペナルティ)を課す対策とは対照的に、報奨を与えるという対策もとられることもあります。
金銭や福利厚生、地位や栄誉などで従業員にとって利益をもたらすため、インセンティブとしては強いと考えます。
しかし、ルールを守るのは当たり前のことなので、当たり前の事に報奨を与えるというよりは、ルールを守ったうえで成果を出した個人や組織に対して報奨を与えることになると思います。
【成果の例】
・品質クレーム件数
・不良率
・既存ルールの不備指摘&改善実施数
・ルール順守するための工数削減
ここで問題になってくるのは報償の中身です。
多くの人に受け入れられる報奨は、やはり「お金」
報奨が魅力的でなければ、多くの人の心を動かすことはできません。
かといって、報奨を大きくとりすぎると財源の確保が困難になります。
実験的に小さな規模から拡大していき、ルール順守によって得られる効果を確認しながらアップデートしていくとよいでしょう。
結果が出始めて報奨もグレードアップしていけば、従業員の楽しみのひとつになる可能性もあります。
ただ、もともとルール順守意識や個々の持っている能力のバラツキもあります。
単純な報奨制度であれば、もともと意識が高く、能力も高い人に報奨が集中してしまうことになるでしょう。
能力的に劣る人がどうあがいても太刀打ちできず、特定の人だけ報奨をもらい続け、その他の人は報奨をもらえないという状態になると従業員間で分かりやすい格差が生まれ、報奨制度の効果が薄れます。
能力的に劣っていても、自分なりに頑張って成果を出した人には、その伸び率も報奨対象とするべきです。
努力して褒められるという喜びを味わうと、また褒められるために頑張ろうという気持ちになる人も一定数はいるはず。
頑張って結果を伸ばした人にも、相応の対価を支払えると従業員満足度も向上するでしょう。
④プロセスを機械化、電子化して人に依存しない割合を増やす
■メリット
ヒューマンエラーの原因である「人」の依存度を減らし、バラツキの少ない安定した結果を出せる
■デメリット
・多くのコストがかかる
・システムが複雑になると、汎用性が無くなり長期的な運用ができなくなる
もっとも効果が期待できるのは、プロセスを機械化・電子化することです。
正しい手順で作業しないと設備が動かないようにしたり、ドキュメントの承認が得られないようにしたりという感じ。
言うはカンタンですが、当然大掛かりになれば多くのコストがかかります。
しかも、将来的に組織内の環境が大きく変わったり、保守ができないほど設備やシステムが陳腐化してしまったりすると、その都度大掛かりな投資が必要になります。(パソコンのOSサポート切れなど)
どれだけ将来の改造や保守・メンテを見込んだ設計にできるかが課題となるでしょう。
機械化・電子化は、一見すると「金さえかければ高い効果が期待できる」と思うでしょうが、過信は禁物です。
結局、その設備や情報システムをルールに従って作っていくのは人間です。
作る人間、または組織のルール順守への意識が高くないと、作られた設備や情報システムも穴だらけになってしまいます。
誤った思想で大掛かりな投資をすると、損失も大きくなることを忘れないように。
さいごに
ルールを守ってもらうための対策に、コレだ!という答えは正直言ってないと思います。
明確な答えを知りたかった方には申し訳ありませんが、これが現実です・・・。
ルールを守らない原因は組織によって様々であり、原因が一つということはほぼありません
前述したような対策を組み合わせて、その組織に適した従業員への動機づけと、できる範囲での機械化・電子化を進めなければいけません。
これは品質保証部門や製造部門など個々の1部門でできるものではないです。
品質を確保するために、製造やサービスの納期を遅らせるような決断もしなければいけないかもしれません。
納期とコストを重視するなら、妥協できる品質レベルを定義しなければいけないこともあるでしょう。
従業員に活き活きと働いてほしければ、人事制度の見直しや、チャレンジして失敗した損失を会社全体でカバーするような風土づくりも必要です。
企業であれば、企業のトップと各部門のリーダーが現場の現実を直視して議論を交わし、従業員目線に立った施策を行動で示しながら全社一丸となって動かなければいけません。
理想は、
従業員全員がトップの方針(進むべき道)を共有し、各部門が自律して組織と個人の利益を尊重した秩序を生み出し、維持向上できる環境を用意すること
もちろん数か月レベルで効果が出るとは思わずに根気よく継続することが大切です。
その際に忘れてはいけない考え方は、以下の3つ。
- 罪を憎んで人を憎まず
- 失敗を執拗に責めず、次に活かすために共に考える
- 成果を出したら相応の評価をしてあげる
そして、これらを管理者自ら実際の行動で示すことです。
従業員は管理者をいつも見ています。
管理者の普段の言動ひとつで組織を大きく変えられることもお忘れなく。
僕自身、楽しく仕事をしていくために考え、行動しているつもりですがまだ道半ば。
一緒に思考錯誤しながら楽しんでいきましょう!
おわり
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